#21【小松は〈コマツビトが増えるまち〉】山﨑洸希さん
小松の魅力をリアルな声でお伝えする《まちのみんなの声》。今回は、小松市内で建築士として活躍する山﨑洸希さんに伺いました。
「Komatsu九」の意匠設計を担当
羽咋市出身の山﨑洸希さんは、建築士を目指して、金沢工業大学建築デザイン学科に進学。大学院卒業後は金沢の建築設計事務所に就職し、公共施設や商業施設など主に大規模建築物の意匠設計に携わってきました。
意匠設計とは、外観や内部のデザインだけではなく、構造・設備・電気といった部署をまとめ引っ張っていく、いわば建築設計全体のプロデューサー。なんと、山﨑さんは入社3年目という若さで、大きなプロジェクトを全任することになったのです。
そのプロジェクトとは、JR小松駅高架下の「Komatsu九(コマツナイン)」。フードエリア、スーベニア&カフェエリア、コワーキングエリア、ギャラリー&イベントエリアからなる観光交流施設で、グッドデザイン賞2024、日本空間デザイン賞2024を受賞しました。
中でも目を引くのが、ギャラリー&イベントエリア。ガラスの棚板に並んだ土器は、美しく照らされ、まるで空中に浮いているかのような不思議な感覚にとらわれます。
小松駅は弥生時代の環濠集落「八日市地方遺跡(ようかいちじかたいせき)」があった場所にあり、ここで発掘された本物の出土品が200点以上並んでいるんです。きらきらと輝く展示物に、埋蔵文化財のイメージが覆されます。
この内装設計を担当したのが山﨑さん。ギャラリー&イベントエリアは、ひと・モノ・情報の交流拠点として、小松を知ってもらうためのきっかけづくりの場。土器をインスタレーションのように仕立て、誰にでも楽しめるようなミニマルな展示にしたのです。
展示コーナーの正面には、140インチの大型のLEDビジョンが設置されています。eスポーツの大会や映画の上映会などさまざまな使い方が可能。壁の曲面がなんだか近未来的な空気感を醸し出していますね。
駅に打ち上げた「九谷焼」の花火
実は、山﨑さんがKomatsu九を任されたのは、北陸新幹線小松駅の待合室を手掛けたご縁からでした。設計デザインコンペで「九谷焼で木場潟の花火を復活させよう」というコンセプトが支持され、山﨑さんのデザイン案が採用されたのです。
大きな2本の柱には、花火に見立てた九谷焼の絵皿が。大きなものは直径45センチ。それぞれの作家さんの個性が際立ち、九谷焼の多彩さも一目瞭然。この仕事を通して、小松の文化に深く触れることとなり、小松の人たちにあふれる地元愛を知ったといいます。
人の暮らしに寄り添える建築士に
現在は、小松にある建築事務所「株式会社ハチグラム」に勤務する山﨑さん。住宅やお店などの新築、リノベーションなどを行っています。
設計はもちろん、電気や設備の図面、工事監理にアフターメンテナンス、さらには営業や見積り作成まですべて担当。どのような暮らしをしたいかというイメージを形にするため、土地探しからスタートすることも。
〈使い手に寄り添う建築士〉を目指したい。建築の全てを学ぼうという覚悟で新たに飛び込んだ「住宅」という仕事に、山﨑さんは大きなやりがいを感じているといいます。
現在担当する案件の一つが、築100年の町家のリノベーション。緻密な打ち合わせを重ねながら、クライアントの思いを形にしていきます。
山﨑さんは、古い柱や壁、建具などの素材は全てを壊すのではなく、先人たちが大切にしてきた〈場〉を残せるよう配慮しているとのこと。さらに、小松のまちづくりにつながるようにと、古い街並みに溶け込みながら、街に開けた空間も計画しているそうです。
クリエイターとしての顔も!人気の植木鉢「POT」
さてもう一つ、山﨑さんには別の顔が。植物を愛する〈植木鉢クリエイター〉なんです。マダガスカルなどが原産の「ビザールプランツ」を育てるうちに、鉢にもこだわりたいと趣味で作り始めたそう。3Dプリンタで成形した後、研磨、塗装を重ねて、一つ一つ手作りしています。
自然が造り上げる模様や形状にインスピレーションを受けたとのことで、稲妻のようなデザインが印象的なこちらの鉢は、悠久の時の流れを感じさせます。樹脂とは思えない風合いで、精巧に作られています。
ちなみにこのユーモラスな塊根植物は「センナメリディオナリス」。夜になったり水が足りなくなったりすると葉を閉じる性質があるんですって。朝になると再び葉を開く愛嬌たっぷりの姿に、見ているだけで癒されるそうです。
デザインや設計は職業柄お得意な山﨑さん。どんどん素敵なプロダクトが生まれ、インスタグラムに投稿したところ欲しいという人が続出! 販売も手がけるようになりました。今や、ふるさと納税の人気商品に。さすが空間設計のスペシャリストが手がける植木鉢ですよね。
インスタグラムの写真の美しさにもため息…。実は山﨑さん、写真の腕も超一流で、学生時代にフォトコンテストで内閣総理大臣賞に輝いた実力の持ち主なんです。
山﨑さんは北陸を中心に「POT」の販売イベントを行っていて、Komatsu九でも昨年3月に「植物TEN」を主催しました。自ら設計したレンタルスペースを借りて、今度は〈使う側〉に。イベントには約800人のお客さんが訪れ大盛況! 市民が自由に使える〈駅ナカの可能性〉を改めて実感したそうですよ。
イベントレポートはこちらから↓
小松に根を下ろすことを決めた山﨑さんに、小松について伺ってみました。
Q. 「Komatsu九」の仕事を振り返っていかがですか?
打ち合わせは毎回、とても熱かったですね。若い人たちがばんばん意見を言える環境があって、小松を良くしたいという市民の力や、市役所の人もまちの人もみなさん小松が大好きなんだなと感じました。大変でしたが、設計士として大きく成長できた気がしますし、とても充実した仕事でした。
Q. 小松に拠点を移されて感じたことはありますか?
ハチグラムでの最初の仕事は、オフィスのリノベーションでした。光・風・自然素材・風景などにフォーカスを当て、自分の働く場を設計しました。居心地がよく、毎日120%で働けています。良いデザインは良い空間で生まれるのだと日々実感しています。
Q. 小松でよく行く場所は?
安宅にある「YU SWEETS(ユースイーツ)」さんによく行きます。おすすめはショートケーキ。僕がこれまで食べた史上、生クリームが一番美味しい! 甘すぎずコクがあるんです。旬のフルーツにもこだわりがあり、いつ行っても違うケーキがあって「ああ、秋がきたな」とか季節を感じられるんです。そういうケーキ屋さんって素敵ですよね。
もう一つは、滝ヶ原石の石切場です。本当にすごい場所で、他のどこにもないあの空間美に、感銘を受けました。
Komatsu九は「GEMBAモノヅクリエキスポ」の発信ができる場所にしたいということで、展示コーナーを設けています。設計にあたってGEMBAを知るために、メンバーの荒谷商店さんの石切場にお邪魔したのが最初でした。洞窟みたいな場所で滝ヶ原石を削って、器を製作する体験をしました。こんなことが市街地からすぐの場所でできるんだとびっくりしました。
Q. 小松を拠点にしようと思ったのはどうしてですか?
様々な仕事を通して、多くの〈コマツビト〉に出会いました。小松にはいろんなものづくりをする人たちがたくさんいて、あらゆる分野のスペシャリストが揃っています。みなさん熱意にあふれていて、若い人たちでもチャレンジしやすい雰囲気がありますよね。余白があって、みなさん温かく受け入れてくださるというのも、小松のいいところ。自分もものづくりをする1人として、伸びていける場所だと感じています。
Q. 小松を一言で表すと、どんなまちですか?
「コマツビトが増えるまち」。地元の人で〈コマツビト〉という人は結構いると思うんですけど、外から来た人を〈コマツビト〉に染める、そういう人の良さ、まちの良さがありますよね。僕も染められた側なんですけど、染めていく人になりたいです。小松はそんな〈コマツビト〉がどんどん増えていく、豊かなまちだと思います。
(取材は2024年12月)