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#04【こまつ美食帖】安宅町の旧北前船主邸カフェ「瀬戸又」
小松の美味しいものをご紹介する【こまつ美食帖】。今回は、北前船ゆかりの豪壮なお屋敷で本格スパイスカレーを提供する「瀬戸又(せとまた)」です。店主は東京からUターンした瀬戸瑞穂さん。どんなお店なのか、潜入してきました!
北前船の歴史が香る「瀬戸又」
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江戸から明治期にかけ、北前船の寄港地として栄えた小松市安宅町。旧北前船主邸「瀬戸家」は、今も子孫が大切に住み継いでいる全国的に珍しいお宅です。現存する建物は、200年ほど前の大火後に農村部から移築したものだそう。というわけで、港町には珍しい切妻屋根なんです。
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大きな扉の前には「商い中」の看板が。くぐり戸をそっと開けて、中に入ると・・・所有していた船の名を記したのぼり旗がのれんに!北前船の名残をあちこちに感じます。
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重厚感のある柱や梁、丁寧に仕上げられた建具や調度品などからも、いかに繁栄を築いたのかを窺い知ることができますよね。
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この歴史ある建物でカフェ「瀬戸又」をオープンしたのは、瀬戸家の一人娘である瀬戸瑞穂さん。大学では建築を学び、地元の企業に就職しましたが、新しいことに挑戦したいと単身東京へ。食べるのが大好きだったことから、有名なオーガニックレストランなど長年飲食業に携わってきました。

子育てもひと段落し、母親が元気なうちに実家で一緒に何かできたらと、夫の次博さんと二人でUターン。それまでは予約制の内部公開にとどまっていましたが、リフォームして厨房を設置。昨年11月、気軽に訪れることができるカフェとして生まれ変わらせたのです。
★自慢のスパイスカレー
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「瀬戸又」の人気メニューは、週替わりで提供する〈カレーランチセット〉(1,500円)。瑞穂さんはスパイスカレーの店を任された経験を生かし、たくさんのスパイスを調合して一から作っています。多いときには10種類近くのスパイスをブレンドしており、どのスパイスを主役にして脇役をどう立たせるかといった入念な設計をしているそう。
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ちなみに取材に伺った日のカレーは〈鶏もも肉としめじのスパイシーココナッツカレー〉。ココナッツという響きに騙されることなかれ、唐辛子を効かせたホットなお味なのです。ヨーグルトと粒マスタードで旨味を出し、ココナッツのまろやかさで全体をまとめます。口の中でほろっと崩れる鶏肉。少し甘い香りはカスメリティ。たっぷりのスパイスで、体の奥からぽっかぽか。
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カフェメニューの〈クラフトコーラ〉(500円)もスパイシー!スパイスを調合して作った、瑞穂さんのオリジナルブレンドだそうですよ。
★名物〈だし巻き卵〉&〈どぶ漬け〉

サイドメニューも充実。基本的に週替わりですが、定番として出しているのが、料理人のご主人が作る〈だし巻き玉子〉。鰹と昆布で丁寧にとった出汁をたっぷり加え、上品な味に仕上げています。水分が多いと巻くのが難しいですが、さすが腕利きの料理人。美しく巻き上げ、しっとりふんわり。
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そしてこちらは、季節限定、安宅の郷土料理の〈どぶ漬け〉。漬けられているのは、北前船を彷彿とさせるニシン、スルメイカに、なんと数の子。それらを甘い麹と味噌で1ヶ月間漬け込んで仕上げるという、北海道と北陸の文化を融合させた逸品なんです。プチプチと数の子が口の中で弾けます!なんて贅沢な一品!日本酒が進みそう・・・。
昔はどこの家でも作っていたという〈どぶ漬け〉ですが、瑞穂さんによると今や作り続けているのは「瀬戸又」1軒だけになってしまったんだとか。秘伝の味、ぜひご賞味あれ!
美味しいコーヒーでカフェタイム
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カフェタイムも、子どもが生まれて健康に気を遣うようになったという瑞穂さんらしいスイーツを提供。
シナモンを効かせた「林檎とイチジクのパイ」(500円)は、全粒粉を使ったどっしりとした生地で食べ応え満点。果物をベースにメープルシロップで甘みづけ。ごろごろ入ったくるみの食感もたまりません。挽きたてのこだわりコーヒー(500円)と一緒にどうぞ!
囲炉裏や柔らかい光が心地よい空間。暗くなり始める時間帯も風情があっておすすめとのことですよ。
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2年前に東京からUターンしてカフェをオープンした瀬戸瑞穂さんに、小松での暮らしなど伺ってみました。
Q.小松での暮らしはいかがですか?

小松に戻ってきてから、いろんなお店巡りを楽しんでいます。まず、日本酒の「農口尚彦研究所」。そして、小松のパン屋さん「穀雨」や、鶴来にあるジェラートと焼き菓子の「Atsushi Ikeda.(アツシイケダ)」などは、倉庫を改装していて面白いですよね。能美市の点心のお店、「茶楽」も良かったです。センスのいい場所に惹かれます。山のほうにあるお店が特に面白いですね。

昔は古いものには興味がなかったんですけど、年齢を重ねるにつれてだんだん好きになってきました。印籠や根付け、鶴を絞りで描いた襦袢など、当時は相当粋なおしゃれだったんだなと感じます。
九谷焼や漆器などもいいですよね。割れていたりヒビが入っているお皿も結構あるので、金継ぎを習い始めて、少しずつ直して使っています。古い時代に思いを馳せるのも楽しいです。
Q.安宅のおすすめの場所などはありますか?
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小松に戻ってきてしばらくは、毎日のように散歩に行っていました。安宅住吉神社の境内を抜けて、海のほうまで降りていって、「安宅カフェ」で一休みとか。梯川沿いに小松天満宮まで歩くのも気持ちがいいですよ。
安宅で育っていながら最近まで知らなかったんですが、小さい神社があちこちにあって、元旦に地域の人たちで新年のあいさつ巡りをしているんです。安宅には人々のあったかさみたいなものがありますね。
地域の人たちで集う「フードショップでぐち」は私の行きつけです。お好み焼きを焼いてもらって、ビールを飲みながら読書して、眠たくなるまでそこにいるみたいな、自分の家にいるかのような居心地のいい場所です。
Q.瀬戸又をどんなお店にしたいですか?
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訪れる方に、異空間を体験してもらえるようなお店にしたいですね。全国に北前船主邸はいくつもあるんですが、子孫がそのまま住み続けているところはなかなかないようで、専門家の方からも貴重だと言われています。生きた資料館として、北前船の面影を感じていただけるような場所になれば嬉しいです。
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毎年2月11日には北前船の時代から続く「起舟の宴」という宴席を設けています。地元の方たちと民謡なども歌ってとても賑やかに過ごします。カフェでも桃の節句や端午の節句など、季節を感じるようなイベントを企画していきたいです。
今はランチとティータイムだけなんですが、ゆくゆくは夜も営業して、夫の作るコース料理を提供したいですね。
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「瀬戸又」は、小松の歴史や文化を体感できる素敵なカフェ。北前船主の暮らしに思いを馳せながら、ゆったりとした時間の流れを楽しんでくださいね。
瀬戸又
[住所]石川県小松市安宅町ヨ55-5
[電話]0761-21-1570
[営業時間]ランチ:11時30分〜14時(L.O.13時30分)、ティータイム:14時〜18時(L.O.17時)
[定休日]月曜・火曜
[URL]https://www.instagram.com/setomata/
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(取材は2025年1月)