【小松は“ふらっと来れる田舎”】酢馬さんの声
小松に住む人たちの本音をお伝えする「まちのみんなの声」。第11回目は、酢馬慶太(すまけいた)さんです。
酢馬さんは、鉄職人であり、鉄の造形作家。小松市内に「IRON WORKS KORU(アイアンワークス・コル)」として工房を構え、オーダーメイドの表札や店舗什器など、お客さんの要望に合わせたさまざまなものを作っています。
中でも特に評価が高いのが【表札】。手書きの文字も見事な技で切り抜きます。レーザーではななく、フリーハンドカットにこだわる酢馬さん。ガス刃でカットすると断面に〈ノッチ〉という表情が出るため、味わい深い表札に仕上がるのです。
通常は6ミリの鉄板で作りますが、30ミリのものも可能だとか。表札は家の顔でもあるため、こだわる人が多いそう。しかしガス刃は温度調整が難しく、熟練の技がなければキリッとしたエッジは生まれません。どんなに暑い夏でも冷房なし!炎と戦いながら制作する職人魂に頭が下がります。
そして今、酢馬さんが一番力を入れている商品は〈フライパン〉です。優美なフォルム、そしてこの薄さ!持ち上げてみると、あまりの軽さにびっくり!
一つ一つ、何百回と手打ちで丁寧に作っていくため、ひとつとして同じ表情はありません。機能性に加え〈たった一つ〉というオリジナル性にひかれ、全国から注文が相次ぐ人気商品となっています。
叩いたり、ガスの炎でカットしたり。酢馬さんは、さまざまな技術を駆使しながら、鉄の持つ異なる表情を組み合わせた造形作品を制作しています。鉄という素材の面白さに改めて気付かされます。
危険を伴い、体にも大きな負担がかかる作業ですが、SNSなどでお客さんが喜んで使ってくれている写真を見ると「よっしゃ、またやるか!」とやる気に火がつくとのこと。これからもいろんな作品たちが生まれるに違いありません。
茨城県で生まれ、幼少期に金沢に引っ越した酢馬さん。高校卒業後は建築を学ぶために、東京の専門学校へ進みます。そして金沢にUターン。プロのスノーボーダーや、スノーボードショップの店長として活躍するなど、持ち前のチャレンジ精神で様々な経験を積んできました。
そんな酢馬さんの最大の転機は、30歳のとき。知り合いに誘われ、名古屋の鉄工場に住み込みで弟子入りしたことでした。そこで習得した鉄の技術を応用するべく、8年前に小松で独立。現在は鉄の造形作家として、どこにもないオリジナルの作品制作を続けています。
新天地として小松を選んだ酢馬さんに、移住してからの暮らしについて伺いました。
Q.小松に引っ越してきて良かったと思うことはありますか?
人情味あふれる人が多くて、とても居心地がいいです。僕は鉄職人として独立するために小松に来たので、ビジネスをする上で商工会議所や行政や税務署などに行くことも多いのですが、どこも丁寧に対応してくれるので有難いですね。こんな補助金がありますよとか、あちらからアドバイスしてくれたり、親切で手厚いと感じることがよくあります。
今、GEMBA(ゲンバ)プロジェクトの実行委員会のメンバーを務めているんですが、そのご縁で小松の事業者さんと知り合いになって、取り外しができるフライパンの取っ手を作っていただきました。高い技術を持つ職人さんが多い〈ものづくりの街〉だからこそですね。世界にここにしかない技術や製品がいろいろあるってものすごい街だと思います。
Q.今年の【GEMBAモノヅクリエキスポ】もいよいよですね。
はい。今年は11月2日〜5日を予定しています。〈ものづくりのまち・小松〉のいろんな工場や工房を見学・体験できるイベントで、38事業者が合計47のプログラムを提供します。
僕は「自分だけのフライパンを作る」という体験プログラムを提供します。鉄をひたすら叩いて叩いて、鉄を扱うということを体感してもらおうと思っています。予約は【GEMBAモノヅクリエキスポ2023】の公式サイトから受け付けていますので、ぜひオリジナルの手作りフライパンに挑戦してみてください。
Q.小松でよく行く場所はどこですか?
一番行くのは小松商工会議所です(笑)。あとは家の近くの居酒屋。〈なじみの店〉っていうのに憧れていたので、そんなお店ができて嬉しいなと。他愛もない話をしながらほっとできる時間は、とても大切ですね。マスターやおかみさんと気取りなくストレートに付き合えるというのは、小松らしさでもあると思います。
Q.小松を一言で言うなら?
〈ふらっと来れる田舎〉ですかね。気を張らずに気軽に来れるというか、この田舎の雰囲気がいいんですよ。人のつながり、包容力、住み心地。新幹線が延伸しても、この小松の良さはそのまま受け継がれていってほしいと願っています。
(取材は2023年10月)