【小松は“なんでもあるまち”】近さんご一家の声
小松に住む人たちの本音をお伝えする「まちのみんなの声」。第9回目は、近信濃(こんしなの)さん・真未子(まみこ)さんご一家。中学生の杉松(すぎまつ)くん、小学生の松葉(まつは)ちゃん、朋松(ともまつ)くんとの5人家族です。
近信濃さんは東京都出身。小松市出身の真未子さんとは、友人を通して知り合ったそうです。結婚後は東京で暮らしていましたが、杉松くんの出産で里帰り中に東日本大震災が。兼ねてから「田舎で子育てをしたい」と考えていた近さん夫妻の移住を後押しすることになりました。
信濃さんは、クラシックギターとウクレレを製作する工房を構えています。今年14周年を迎えた工房には、全国のプロギタリストやギター愛好家からの修理依頼も舞い込みます。ロシアの民族楽器「バラライカ」などの修理を請け負うこともあり、国内でも数少ない撥弦楽器の専門家として活躍しています。
楽器製作はオーダーメイド。依頼者が求める音や響きを出すことができるよう、細かいところまで徹底的にこだわります。100年もつ楽器を作るため、接着剤はニカワ。そして塗装には天然素材を使い、何度も何度も薄く塗り重ねていきます。なんとその回数は200回以上!クラシックギターの完成に3ヶ月ほどかかるという丁寧な仕事に頭が下がります。
そんな信濃さんが10年ほど前から挑戦しているのは、石川県の木材を使った楽器製作です。ワシントン条約で外材の調達が難しくなる中、地元の木材で製作してみようと思い立ったのがきっかけです。
楽器とはもともとその土地に根付いた音を奏でるもの。信濃さんによれば、ヨーロッパが本場のクラシックギターにも、オーストラリアなど他地域でも作られるようになってきているそう。そこで現在は外材がメインの日本のギター界に風を吹き込み、石川県の木材で新しい音色を奏でることができたら…。
夢はどんどん膨らんで、木材探しから始まった長い歩み。信濃さんの弛みない努力により、昨年、石川県の県木でもある「能登ヒバ」のウクレレが商品化。年内にはギターも完成するそうです。
信濃さんは、木材を大切に使いたいと端材を使った小物作りにも取り組んでいます。能登ヒバなどで、石川県をかたどったブローチやピアス、それをもとにしたマスキングテープも。木材を大切にしたいという気持ちはもちろんですが、なんという石川愛!温かみのある雑貨の数々は「オトメの金沢」や「アーバンリサーチ」で販売されています。
小松市出身の真未子さん。現在は高校で教員の仕事をしながら、3人の子育てに奮闘しています。工房を持ちたいという信濃さんの夢を後押し。結婚と同時に独立した信濃さんを、いつも明るく支え、ともに歩んできました。
そんな近さんご夫妻に、移住してからの小松での暮らしについて伺いました。
Q. 小松に移住してよかったことはなんですか?
[信濃さん]
食べ物が美味しいことですね。特にカニ、エビ、梅貝などの魚介類。それから野菜もとても美味しくて、東京だとあまり食べたいとは思わなかったんですけど、小松に来てからは野菜をたくさん食べるようになりました。
[真未子さん]
私は小松出身なので、住み慣れた場所で安心だということと、親や親戚が近くにいて心強いことですね。東京に比べて物価が低くて、家賃が安いのもいいところです。それから、子育てをするには海や山があるところがいいと思っていたので、ここでいろんな経験をさせてあげられるのはよかったですね。
[信濃さん]
木場潟で手長エビも釣れるんですよ。海や山はもちろん、潟や川なんかも近くにあって、ふらっと行くことができる。子どもを自然の中で育てることができるというのは、とても大事なことだと思います。のびのび育ちますよね。
Q. 小松に移住して困ったことはありますか?
[信濃さん]
実は移住した最初の冬、うつみたいな感じになりました。知らず知らずのうちに落ち込んでしまっていたみたいで。東京にいると、冬って晴れているのが普通だったので、北陸独特の天気が原因だったんだと思います。でも2年目からは体も慣れてしまったようで、何ともなかったですね。
Q. 移住後、この場所に引っ越されたんですね。
[信濃さん]
最初は別の場所に住んでいたんですが、ずっとどこかいい場所がないかと探していたんです。たまたまこの町内に知り合いがいて、話をきいていたらいい街だなと思って。昭和初期の建物だというのも惹かれました。
[真未子さん]
この地域は伝統的景観重点地区ということもあって、格子や壁の色など街並みに合わせるように改修するため、費用の一部を助成してもらいました。ここはもともとはお店だったので、住めるように大掛かりにリノベーションしなければならなかったので助かりました。
Q. 小松市での暮らしはいかがですか?
[信濃さん]
ちょうど越してきた年、この町内がお旅まつりの当番町で、若衆で参加させてもらいました。今年もまた当番町に当たっていて、今度はメンバーとして祭の運営に携わりました。それまでは祭って面倒なんじゃないかと敬遠していたところもあったんですが、実際にやってみたらやり甲斐があるなと。大きな曳山を設計図もないのに毎回組み立てるとか、すごい伝統だなと思いました。
[真未子さん]
近くに「こまつ曳山交流館みよっさ」があるんですが、娘がここで日本舞踊を習っています。その道で活躍されている先生に無料で教えていただけるなんて本当にありがたいですし、伝統文化を大切にする小松ならではの心意気だと感じています。
Q. 小松でお気に入りの場所はありますか?
[信濃さん]
安宅の海ですね。最初の年は嬉しくて、毎日泳ぎに行ってました(笑)。最近は泳いだりはしていませんが、1人でふらっと自転車に乗って海を眺めに行くことも多いです。海に沈んでいく夕日が見られたりすることもあって、とても豊かだなと思います。
[真未子さん]
私は「作った人」が見えるものが好きなんです。小松にはそんなお店が多くて、そういう農家さん、作家さん、美味しいものやさんによく買い物に行きます。
あと、お気に入りの場所といいますか、他によく行く場所は末広ですね。プールとか陸上とか、子どもの習い事や部活の大会や練習の送り迎えをしています。近くにスポーツ施設が充実しているのもいいですね。
Q. お子さん全員のお名前に〈松〉がついているんですね。
[信濃さん]
僕の一番好きな木がヒマラヤ杉、つまり「杉松」なんです(笑)。なので長男は「杉松」。
[真未子さん]
ギターでは杉と松を大事な部分に使うということもありましたし、杉のようにまっすぐ、松みたいに自由に育ってほしい、そんな願いも込めました。
[信濃さん]
そして「松葉」に「朋松」。みんな小松で生まれたので、3人とも〈松〉の字をつけたかったんです。
Q. 小松市を一言でいうならどんなまちですか?
[信濃さん]
〈なんにもないようでなんでもある〉まち。一見何もないように見えるけれども、交通の便がよくて、飛行機もあるし間もなく新幹線も開通する。自然もたくさんあって、伝統文化も盛ん。食べ物も美味しくて、スポーツもしようと思えば何でもできる。近くに何でもあるまちだなと感じています。
[真未子さん]
本当の田舎というわけではなく、コンパクトでちょうどいい。とても住みやすいまちですよね。
(取材は2023年8月)