#18【こまつは〈誇れる地元〉】やまとグループ 任田和真さんの声
小松在住の方のリアルな声をお届けする《まちのみんなの声》。今回は、波佐谷地区で進む地域創生プロジェクトの担当者、任田和真(とうだ・かずま)さんです。
小松にUターン!任田和真さん
任田和真さんは小松市出身。大学進学で地元を離れましたが、旧波佐谷小学校の活用を中心とした、波佐谷地区の地域創生プロジェクトに携わるため、今年の5月、14年ぶりに小松に戻ってきました。
◆国際交流活動が大きな転機に
元は教師を目指していた任田さん。でも、『教師はいつでもなれる、人生は一度きり、今しかできないことをしよう』と、大学卒業後は国際交流NGO「ピースボート」に所属。世界一周の船旅をする参加者たちをサポートしながら、地球2周53カ国を回りました。
決して恵まれたとはいえない環境の中で、無邪気に笑い楽しそうに暮らす子どもたち。『人の幸せってなんだろう? 豊かさってなんだろう?』と考えるようになったといいます。
その本質的ともいえる問いから、任田さんが見出したのは〈コミュニティの大切さ〉でした。そしてピースボートで出会った祥子さんとの結婚を機に、「田舎で子育てをしたい」と、地域おこし協力隊として七尾市に移り住んだのです。
◆地域づくり、町おこしがライフワークに
2人のお子さんに恵まれた任田さん。温かなコミュニティの中で子育てをしながら、七尾市への移住定住を促進する活動に取り組んできました。
空き家をデータベース化して移住者を受け入れたり、廃校を会場にイベントを開いたり。地元の風習やしきたりをまとめた「集落の教科書」の作成にもあたりました。それらが大きな評価を得て、なんと平成元年度第10回地域再生大賞で『優秀賞』を受賞!
卒隊後は「合同会社Tohda management(トウダマネジメント)」を設立し、デザインを担当する祥子さんと一緒に、七尾を拠点にさまざまな地域活動や町おこし事業をサポートしてきました。
「こんなことできたらな」というみんなのアイデアを企画にしてまとめ、チームを作り、スムーズに進むよう調整をはかりながらマネジメントするのが任田流。それぞれの意見を聞いて思いを一つにしていく作業には、さまざまな人種や文化、価値観に触れていたピースボートの経験が生かされているといいます。
サイトにはたくさんのプロジェクトが紹介されているんですが、どれも熱気と楽しさが伝わってくるものばかり。地域、コミュニティをキーワードに、さまざまなつながりを創出する任田さんの活動は、仕事を超え、まさしくライフワーク!
◆地域おこし協力隊員のサポートや災害支援も
任田さんの活動はとどまるところを知りません。昨年、県内に70人以上いる地域おこし協力隊のサポート事業にも乗り出しました。
名称は「いしかわ地域おこし協力隊ネットワーク」。共同代表の1人としてメンバー8人で活動中。隊員向けの研修会でノウハウを提供したり、地域や行政との橋渡し役も兼ね、隊員の悩み相談に乗ったりしています。
能登半島地震や豪雨災害の支援活動も行っていて、全国の地域おこし協力隊員やOBOGを被災地とマッチング。支援活動には、隊員として培われてきた地域との調整力が役立つとのことで、現場での稼働力は半端ないんだそう。
波佐谷小学校跡地でスタートした地域創生プロジェクト
そして今、ここ小松でも任田さんが関わるプロジェクトが進行中!
その地域創生プロジェクトとは「北陸悠久の里灯 HASADANI(ほくりくゆうきゅうのさと はさだに)」。里山ののどかさを残しながら、おじいちゃんおばあちゃんからひ孫まで4世代が心豊かに暮らせる〈永続的な地域〉を作っていこうという試みです。
波佐谷小学校の跡地は、小松市に本社を置く「やまとグループ株式会社」が「CHABU HASADANI(ちゃぶはさだに)」として、誰もが集える交流の場に。「ちゃぶ」というのは、昔懐かし〈ちゃぶ台〉のこと。ちゃぶ台を囲んで大家族で食事をしていた頃の感覚を味わえるような、あったかーい施設をイメージしちゃいますね。
現在完成しているのはオフィス棟のみですが、運動場だった場所にさまざまなお店ができるんです。焼き立てのホームメイドアップルパイ専門店や、昼夜各1組限定のレストラン、おふくろの味をコンセプトにした定食屋、カフェや配食サービスの拠点など。畑や遊具のある原っぱも整備していくそうですよ。
任田さんは「やまとグループ」の一員として、今年5月にプロジェクトに加わり、単身で波佐谷へ。「やまとグループ」は市内で食品製造事業をはじめ、さまざまな事業を展開しています。これまでたくさんのまちおこし事業を成功させてきた実績を買われ、任田さんはプロジェクトの企画や店舗運営などを担当しているんです。
また、地域住民やまちづくりに関わりたい人と一緒に取り組みを進めていくために、「せたに未来ネットワーク」を発足。住民や行政の人たちにもメンバーに入ってもらって、どのようなまちにしたいか、どんな施設にするべきかという話合いがなされています。この丁寧なアプローチが、コミュニティづくりの肝なんですね。
3階建の旧校舎は、先月竣工式を終えたばかり。2階は研究開発フロアになっていて、管理栄養士や調理師がレシピを考案していました。ガラス張りなのでその様子を通路から見ることができます。とても明るく開放的なオフィスです。
長年病院食や介護食などを手掛けてきた「やまとグループ」だからこそ、みんな一緒に同じごはんを食べられる環境や、まぁるくつながる人の輪を作り出せるのかもしれませんね。
旧校舎のプール側には、大きな壁画が! 高さ12メートル、幅9メートル。描いたのは、東北の防波堤に巨大壁画を手がけるアーティスト、安井鷹之介さんです。実は波佐谷の近くに数年住んでいたこともあるんだとか!すごいご縁です。
波佐谷の名前の由来とも言われる「蓮」が幻想的。プールはもしかして蓮池になるのか? そんな妄想まで膨らんでしまいます。蓮の花のピンクは、校舎が現役だったときに外壁に差し色で使われていたんだそう。この絵は、かつての波佐谷小学校のエッセンスが効いているんですね。
安井さんがペイントする前に、任田さんが企画したのは、この小学校に通っていた卒業生や地域の人たちにペンキで絵を描いてもらおうというイベント。壁画の下には、そんな遊びっぷりも隠れているんです。体験が思い出になり、思い出は体験により鮮明化する。きっと多くの人たちの心の中に、波佐谷の思い出が刻まれていくことでしょう。
オフィス棟内は一般公開されていませんが、来年の春に向けて少しずつ敷地内にお店がオープンしていくとのこと。
そして、地域の人たちが働ける場所づくりもミッションのひとつなのだとか。「CHABU HASADANI」は、世代を問わず生き生きと暮らせる場所、地域の人たちが自然に集まれる場所、そしてシニアの知識や経験が若い世代に受け継がれる場所にもなりそうです。
働く人も遊びに来る人も、誰もが元気に楽しく過ごせる波佐谷に。もしかしたら、全国の〈里〉の先進地になるかも。ワクワクしちゃいます!
コミュニティ作りのプロ、任田さんに小松に来てからの暮らしなどについて伺ってみました。
Q.波佐谷での暮らしはいかがですか。
とても気に入っています。実家は市街地にあるので、小松で田舎暮らしというイメージはなかったんですが、小松でも「田舎で子育て」ができるんだと思いました。田舎ってお互いのことをよく知っていて、そんな関係値の深さに、僕はとても安心するんですよね。
家は10LDKの納屋付きで、広々と暮らしています。来年、妻と子どもも小松に引っ越してくるので、波佐谷で地域の方とお付き合いを重ねながら子育てしていくのが楽しみです。
実は、父は中学校の教師で、初任地がこの地域にあった松東中学校。近所にも父の教え子たちがたくさんいらっしゃって、全く見知らぬ相手という気がしないんです。この地域で仕事をすることにご縁を感じています。
Q.Uターンして小松の印象は変わりましたか。
高校生の頃は、なんにもないまちという印象だったんですが、今は見え方が全く違いますね。まちづくりの仕事を通して小松の面白い人たちとつながって、小松に可能性しか感じないというか。〈ポテンシャルが高すぎるまち〉だと考えるようになりました。
新幹線も空港もあって利便性が高い上に、山も川も海もある。産業もあって、若手の事業者さんが頑張っていて、しかもそのプレーヤーの数が多い。小松って資源の宝庫だと思います。
Q.小松でも「人をつなぐ」活動をいろいろ展開されていらっしゃいますね。
そうなんです。波佐谷のプロジェクト以外にも、2つの活動をしています。
一つは、今年8月から開講した「こまつ地域未来創造塾」。小松の地域課題をビジネスの力で解決していこうという先進的な取り組みで、僕は事務局の代表を務めています。
1期生は12名。小松市内にあるさまざまな業種の事業者さんたちなので、面白いコラボレーションが自然に起きてくるようなそんな場になればと思っています。
また、塾生たちがキャリア教育や探求学習に関わることも目指しています。中学や高校時代に〈かっこいい大人〉に出会うことで、進学で一時的に地元を離れたとしても、小松に戻ってくるんじゃないかと。大人と子どもがどんどん関わる場を設けていきたいですね。
もう一つは「イジュトーーク」。移住者交流会と称した飲み会です(笑)。2年前から世話役を引き継いで、毎月能登で開催しているんですが、小松でもやったら面白いんじゃないかと。今月は5回目で、10月30日に予定しています。毎回20人以上集まって、フラットに楽しく交流しています。
実は、僕が七尾に移住する決め手となったのが「イジュトーーク」なんです。下見に行った時にちょうど開かれていたので参加してみたら、なんだこの面白い街は!と衝撃を受けて。移住者の方ってやりたいことだとか、ポジティブな思いを持っている人が多くて、話していてとても楽しいんですよね。盛り上がって、「じゃ、それやろうよ」ってみんなが協力して実現するということもありました。
「イジュトーーク」は完全に趣味でやっていることなんですが、小松でもいつの間にか面でつながっていくような、面白い流れになっているなと実感しています。
Q.小松市内でおすすめの場所を教えてください。
やはり、ここ波佐谷ですね。里山に広がる田園を、3階のオフィスからよく眺めています。稲穂が黄金色に実って、ふさふさしている時の田んぼがものすごく美しいんです。初夏も、麦畑の金色と水田の緑の対比が素晴らしくて、波佐谷の景色を多くの人に見てもらいたいです。
そして、子どもたちの心にいつまでも残るような里山の原体験も、ここで作っていきたいです。田植えの時期にどろんこラグビーとか、大杉谷川で丸太渡り競争とか。いろんな人が参加できるイベントをどんどん企画しようと考えています。
10月26日(土)には、瀬領町のせせらぎの郷で「せせらぎマルシェ」を開きます。波佐谷エリアの紅葉や、秋の味覚を楽しみに、ぜひ遊びに来てください!
Q.小松をひとことで表現するなら?
「誇れる地元」ですね。産業、資源、人材、自然といろんなものがあって、それぞれを掛け合わせるとすごいものができそうで、いろんな可能性を感じます。そんな〈かっこいい地元〉小松に誇りを持っています。
(2024年9月取材)