#15【小松の里山暮らしを満喫】家具工房LEON 福原伊織さんの声
小松在住の方に、日々の暮らしや小松の魅力をお話いただく《まちのみんなの声》。15回目は、家具工房LEON(レオン)の福原伊織(ふくはら・いおり)さんです。
家具工房LEONとは?
「家具工房LEON」があるのは、JR小松駅から車で15分ほど。鳥越方面に向かう国道沿いの緑豊かな里山エリアです。
4年ほど前に移転した工房にはギャラリーが併設され、天然の無垢材で作る家具や暮らしの道具をオーダーメイドで製作しています。こだわりは〈長く美しく使えるものを作る〉こと。素材選びから加工、メンテナンスや修理に至るまで、人の一生に寄り添うことができる家具を提案しています。
代表の福原伊織さん
専門学校に進むため富山県から石川県に移り住んだ福原伊織さん。学校のときに家具作りの楽しさを知り、卒業後は小松市内にある無垢材の家具工房などで修業しました。以来、小松での生活は17年目に突入、「ほぼ小松の血が流れてます」とのこと(笑)。
2014年に独立し、家具工房LEONの代表を務めながら、母校である金沢科学技術大学校で技術講師としても活躍しています。
LEONの家具
カンナやノミなどの昔ながらの工具を使って、細部まで丁寧に仕上げられた家具たち。その凛とした佇まいに目を奪われます。
人気商品は、このスタイリッシュな机。深みのある色合いが美しいウォールナット材ですが、もちろん好きな木材でオーダー可能。最初は学習デスクとして、卒業したら作業台やドレッサー、ミニテーブルと、ライフスタイルに合わせて何にでも用途を変えられる汎用性が大きな魅力です。
見てください、この木目の美しさ!
流れるように木目がつながった引き出しは、隙間なくきっちりと収まっていますが、見えない部分に遊びをもたせることで、出し入れしやすいよう計算されています。見た目の美しさだけでなく、使い心地にもこだわり設計する職人魂の結晶。
また、引き出しを支える「吊り桟(つりざん)」といわれる部品は、あえて木材で作りねじ止めすることで、消耗しても簡単に取り替えられる仕様に。安価で簡単に修理を施せることも、長く使い続けるための必須条件。福原さんが生み出すのは、細かい心配りを散りばめた〈人とともに生きる家具〉なのです。
家具のほか、スプーンや器などの雑貨も並んでいます。化学物質過敏症の方からの問い合わせも多いそうで、試作したヘアコーム(櫛)なども。福原さんの〈人間らしい生き方とは何か〉を追求してきた答えが、ひとつひとつの製品に表れています。
製作する上で大切にしているのは打ち合わせ。予算を考慮しつつ、家具を置く空間に合うデザインや大きさ、色合いなど、具体的な形を提案していきます。それぞれの暮らしに馴染む最適解を、一緒に探し出していくような作業です。
テレビボードの設計図からも、細部にまで手を抜かない姿勢が伝わってきます。ちなみに今注文すると、納品は来年の大型連休あたりとのこと。
職人仲間とともに〈理想を形にする〉ものづくりを
ギャラリーの建物には、地元小松産の杉や松が使われています。なんと建築費用は200万円!カスタマイズ自由な設計らしいので、もしかしたらある日突然、窓ができているかも…。
建具はもちろん、家具工房LEONの製作です。一番の力作は「洗面台」。石川県産の桜の木に、水に強いウレタン塗装を施しています。塗装職人へのオーダーは「天然のオイルで仕上げた木材の手触りと同じものにしてほしい」。
試行錯誤の上完成した〈LEON仕様〉の特別塗装。樹脂とは思えない自然な風合いです。難問を一緒に解決してくれる仲間の存在が、福原さんの製作意欲を一層掻き立ててくれるのかもしれませんね。
ちなみに小松で独立した理由を聞いてみると、技術のある職人さんや作家さんが多く、一緒にものづくりができる環境だったからという答えが。
この革張りのスツールもその環境の賜物です。椅子の形が出来上がってから、革を縫い硬く張り上げてくれる革職人がいるからこそ、張り替えも可能。一生ものの家具を作りたいという福原さんの思いを形にするには、異業種の職人たちとの共同作業が必須なのです。
椅子職人が張り地を担当したスツールは、座り心地も抜群。スエードのようななめらかな手触り。織物ではないので、猫の爪にもひっかからないんだとか。このフォルムと色味にノックダウン!家に連れて帰りたい(笑)。
木材へのこだわり
昨年完成した乾燥倉庫には、ケヤキやサクラなどさまざまな広葉樹の木材が保管されています。9月からは石川県産の木材販売も行うとのこと。オーダーカットやつぎ合わせ、厚み出しや仕上げまで、フルオーダーの加工もOK!大工さんの仕事からDIYまで、幅広く対応してもらえます。
これは「黒柿」という木材。このような黒い筋が入った柿の木は1万本に1本とも言われており、大変貴重なんだそうですよ。
実はこの倉庫、〈手刻み〉という方法で建てられました。合板や集成材は使わず、図面をもとにノコギリやノミなどで丸太を加工し、木を組んで作ります。ちなみに梁は、豪雨被害で解体した赤穂谷温泉の木材を再利用したそうです。
近年はあらかじめ加工された木材を現場で組み立てる〈プレカット〉が主流のため、技術ある大工さんの腕の見せ場を作りたいという思いから。技術を後世に伝えるためには、継承の場が必要。それを実践する姿勢に頭が下がります。
「LEON祭」で職人の可能性を広げたい
福原さんと二人三脚で家具を製作しているのが、村中智治(むらなか・ともはる)さん。20代の頃にアメリカを放浪した経験が買われ、LEONで働くことに。完璧なものを目指そうとする村中さんの職人気質は、道具への向き合い方にも感じられます。
村中さんによると、福原さんは「すべてに自由」な人だとか。仕事に対してもそれぞれの自主性を重んじるため、自らマネジメントできる能力が求められます。それは「楽しんでこそいい仕事ができる」という福原さんの信条によるもの。お互いへの信頼の証でもありますね。
年に2回、工房を公開して行なっている「LEON祭」もその信条がベースになっています。最初はおこづかいになればという気持ちでスタートしたそうですが、やるなら楽しく、職人のレベルアップにつながるイベントとしてどんどん進化!
出展するのはLEONが選んだ石川の職人たち。新しい素材や高品質な素材を使うとか、異業種とコラボレーションするとか、福原さんから投げかけられるお題に、村中さんをはじめ出展者は楽しみながら挑戦。職人の本気と技術が結集した作品発表の場といえるかもしれません。
今後はコンテストなどの計画もあるそうで、ますます盛り上がるイベントに発展しそうです。楽しみですね。
さてさて、何事もエネルギッシュな福原伊織さんに、小松について伺いました。
Q. 小松での暮らしはいかがですか?
山と海が近くて自然が豊か。食べ物も美味しいです。作業場のシャッターを開けると、里山の風景が広がっていて、こんな場所で仕事ができるって贅沢だなと思います。
家の前に川があって、いつでも釣りができる環境も気に入っています。この時期は、鮎を追いかけて遡上する大きなスズキがいるので、ほぼ毎日釣りをしていますね。
夏には近所の子どもたちを集めて釣り大会を開く予定です。賞金をかけ、前半30分、後半30分の真剣勝負。木に足をかけて踏ん張りながら、大物を釣り上げる興奮を味わってもらいたいです。
あとは、スケートボードやスノーボード、ギターも好きです。いろいろと修業時代は控えていたんですが、小学1年生から始めた少林寺拳法も8年ほど前に再開して、小松西道院で子どもと一緒に頑張っています。先日、小松市の大会で優勝しました。毎日が楽しいです。
Q. これからこんなことをしたい、という夢はありますか?
自分がやりたいことを見つけられる、そのきっかけを作る学校を能登に作りたいと思っています。海と山が目の前にある環境で、釣りでもスポーツでもなんでもチャレンジして、楽しいと思えるものに出会ってもらいたい。手応えを感じられる体験を一緒に楽しむ場所にしたいんです。
今、専門学校の講師をしていますが、技術を教えるだけではなくて、働くって楽しいよ、自分の人生は自由に決められるんだよということを伝えたくて、毎回学生たちと話をする時間を設けています。
家具作りもそうですが、子どもから大人にまでものの本質に触れる機会を提供することで、日々の暮らしを楽しんだり、自分で人生を切り開いたりするお手伝いができれば嬉しいですね。
Q. 小松でおすすめのお店を教えてください。
のむら農産さんの直売店「きのこの里」です。おすすめはソフトクリーム。黒胡麻、青汁、発酵ヨーグルトの3種類。バニラとかチョコじゃないんです。ノーマルじゃないものをノーマルにしちゃえるところがいいんですよ。しかも美味しい。
このお店の横にLEONがあった時からよく買いに行っています。近くのおじいちゃんおばあちゃんが作った野菜なんかも置いてあって、田舎の良さを味わえます。
Q. 小松の魅力とは?
「人」ですね。小松は、真面目で親切な方が多い印象です。車を運転中、道を譲ってもらったのでお礼をすると、そのお礼返しをしてくれるとか。びっくりでした。運転の仕方にも地域性が出ますよね。小松ってめっちゃ人がいいなと思いました。
それから小松に住んでいる人たちは、地元の方も県外から来た方もみなさん小松好きですよね。そんなポジティブさにも、街の良さを感じます。
(取材は2024年7月)