#16【こまつは〈自由〉なまち】ダイモール 大杉謙太さんの声
小松在住の方に、小松の魅力や住み心地などをお話いただく《まちのみんなの声》。16回目は、株式会社ダイモールの大杉謙太(おおすぎ・けんた)さんです。
株式会社ダイモールとは?
株式会社ダイモールは、創業75年の「鋳造向けの金型メーカー」です。JR小松駅から車で約8分。イオンモール新小松に近い、便利で人通りが多い場所にあります。
社員は20代前半から50代まで、役員も含め13人。その半数が設計の仕事を担う、バリバリの職人集団です。みなさんの「ものづくりを追求する姿勢」は半端なく、真面目で自由という空気に満ちています。
期待のイノベーター、大杉謙太さん
現在この会社を率いるのが、3代目社長の大杉謙太(おおすぎ・けんた)さんです。
神奈川県の大学で経済学を学び、卒業後はシステム開発会社に就職。仕事は充実していましたが、独立も含めて自身の方向性を考えるようになり、35歳で小松にUターン。祖父が興した会社を継ぐことに決めました。
大杉さんが掲げたキャッチコピーは「たい焼きからロケットまで」。
なんだなんだ?興味をそそられます。
そもそも「金型メーカー」って?
鋳造(金属を溶かして鋳型に流し込み、ものを作ること)には様々な工程があります。「金型メーカー」とは、鋳型を製作するための原型、つまり〈模型〉を作る会社のこと。〈模型〉をもとに金属を流し込む鋳型が作られ、製品を量産していくことが可能になります。
もともとは木材だった模型ですが、高度成長期には金属の模型も作られるようになったので「金型」と言われるようになったとか。現在は、樹脂などの模型もあります。
金型メーカーは、こんな感じのものが作りたいというふわっとした要望にも、その意図をくみとり図面に仕上げなければいけません。かつ、品質のよい製品を作るためには精巧さも求められます。金型メーカーは【製造業の要】と言っていいかも。
ちなみに、小松市のキャラクター「カブッキー」も人形焼の焼き型になっているんですよ。3Dプリンタで製作した石膏の模型をもとに作られました。金型メーカーであるダイモールが3次元データに設計して、3Dプリンタで模型を出力します。
焼き型になるまでには、鋳物屋さんや鋳型やさんなど他の専門メーカーとの連携が必要。いろんな職人さんの作業を経て、この人形焼を食べることができるんですね。
新しい技術を生み出す文化
株式会社ダイモールは、もともとは小松製作所の下請けとして木型を作るところからスタートしました。その後、自動車業界や漆器業界に参入。
そこで磨いた技術を活かして、現在は主に鋳物メーカー向けの金型を製作しています。継手(つぎて)という水道管やガス管などのパイプをつなげる部品だったり、デザイン性の高いクラフト製品だったり、形や大きさは多種多様。
たとえば、能作さんの有名な錫性タンブラーは、ダイモール製の金型を使っています。通常であれば型を外したときの割線跡が製品についてしまいますが、継ぎ目がない形を目指し、【ありえない型構造】を考え出したとのこと(これ以上は企業秘密)。
クライアントからの難問に真摯に、しかし気負うことなく取り組む。そんな自然体のチャレンジ精神により、さまざまな新技術を生み出してきました。
火力発電所の発電機に使われる「タービンブレード」と呼ばれる羽根の部分や、航空宇宙エネルギー関係の部品も作っているんだとか。「たい焼きからロケットまで」とはここに答えがあったんですね。
切削がとてつもなく難しいという、火力発電所で使われるような最先端の金属の加工まで行えるのは、金型メーカーの仕事の範疇を超えているのはもちろん、日本トップクラスの金属加工技術を持つ会社でもあるということなのです。す、すごい!
特許技術を「鋳物オープンイノベーション」に
さらに大杉さんは5年前、実用に耐えないと言われていた3Dプリンタで模型を製作することにも挑戦。研究の結果、精度も耐久性も申し分のない方法を発見し、特許を取得しました。
3Dプリンタを使えば、通常のプラスチックの加工を行うより産業廃棄物の削減につながります。また、木型よりも長持ちし、納期の短縮や複雑な形にも対応でき、かつコストも抑えられるというメリットも。
しかし、特許をとったそのノウハウをあえて公開することに。メーカーからの要望があれば無償で教えることで、鋳物業界のブラッシュアップを図ろうというのです。その心意気に頭が下がります。
この「鋳物オープンイノベーション」、大杉さんはすでに手応えを感じているとのこと。技術を共有し余力が生まれたことで、新しいことに挑戦するメーカーもあるそうですよ。
イノベーションのキーワードは【共創】。お互い駆け引きなく目的意識を持って共に進めば、業界全体に新しい風を吹き込める。そしてそれは、鋳物の可能性を広げることにもつながるのではないか。新しい価値の創造にワクワクしますね。
株式会社ダイモールが発信するnoteに「鋳物オープンイノベーション」の詳しい説明がありますので、ぜひそちらもご一読を。
さて、鋳物業界に旋風を巻き起こす大杉謙太さんに、日々の暮らしや、小松の魅力などを伺いました。
Q. ご趣味や好きなことは何ですか?
旅行、食べ歩き、人と会うことですね。新型コロナでZOOMなどが一般的になって、距離に関係なくいろんな人とオンラインで知り合えるようになりましたが、やっぱりリアルでもお会いしたくなるじゃないですか。なので、お会いするついでに旅行して、その土地のものを食べて…というのが楽しみになっています。
私は新幹線派なので、小松に新幹線の駅ができてとても便利になったなと実感しています。乗り降りのときに手続きがほとんどなくタイムロスが少ないので、やっぱり楽ですね。
いろんな場所を旅していますが、ここ一年でとても印象深いのは、山口県柳井市です。名産は【金魚ちょうちん】。駅やホテル、あちこちに【金魚ちょうちん】が飾られていて、フォトジェニックなんですよ。
たくさん写真を撮って、SNSに投稿したりして、すごく楽しかったですね。名所名跡といったわかりやすい観光コンテンツでなくても、こんなに心に残るんだと参考になりましたし、とても刺激を受けました。
Q. 小松に戻って来られて10年、地元の印象に変化はありましたか?
以前は何もないところだと思っていましたが、今は、全てがコンパクトゆえに、人生が2倍楽しめる街だなと実感しています。駅や空港が近いし、買い物に行くのもすぐだし、しかもどこに行ってもあまり混んでいない。スッと行ってスッと用件をこなせるということは、実は当たり前ではないんですよね。
都会だと、今日はジムに行く日、友達との付き合いの日、地域の会合の日というように、一つしかできなかったりしますが、小松だと通勤距離も短いし、全て1日のうちにできてしまう。昼休みにジムに行くことだって可能ですからね。仕事もプライベートも両立して、充実した毎日を送っています。
Q. 小松でおすすめのお店はありますか?
うなぎの松竹(しょうちく)さんです。私はうなぎが大好物で、誕生日にはケーキより松竹のうなぎでした(笑)。
全国さまざまなうなぎを食べ歩きましたが、どんな名店でも松竹を超えるうなぎには出会えなかったですね。外側がはパリパリ、中はふわっと、松竹さんの焼き加減は絶妙で、しっかりうなぎの存在感がある。日本一美味しいうなぎが食べられます!
Q. 大杉さんが、仕事以外で力を入れていることは?
実は「小松をつなげる30人」というプログラムを始動したんです。いわば【鋳物オープンイノベーション】の地域版で、みんなで町おこしをするというイメージですね。
大企業、中小企業、零細企業、個人商店や、NPO、行政が一緒に協力して、社会問題を解決しようという〈コレクティブインパクト〉を、小松で実践しようと思っています。
7月に「あなたが想う未来の田舎こまつ」というテーマでワークショップを開催したところ、23人の市民が集まってくれました。みんなから出てきたのは、小松は〈ビジネスの街〉だということ。大人がワクワク働いているというビジョンです。
中には「小松市から立ち上がったスタートアップ3社が、ニューヨーク証券取引所に半年で上場して、Forbes誌で取り上げられる」という未来のイメージまで飛び出しました。そこには田舎要素は全くありません。
参加者には高校3年生もいて、最後に「こんな面白い大人がいっぱいいることに感銘を受けた、小松って捨てたもんじゃない」と発言してくれました。そのときに、これが小松だなと思ったんです。「小松をつなげる30人」というチームで、小松の発展が持続的なものとなるような取り組みを進めていきたいと考えています。
Q. 小松の魅力を一言でいうなら?
〈自由〉ですね。ワークショップで出てきたように、小松は「大人がワクワクと自由に仕事をしている街」。さまざまな人たちが関わる官民共創型のプラットフォームが生まれ、変革を起こす力が、小松には備わっていると思います。
(2024年8月取材)