【小松は“ちょうどいいコンパクトシティ”】 福岡さんご家族の声
小松に住む人たちの本音をお伝えする「まちのみんなの声」。第7回目にご登場いただくのは、福岡大平(ふくおかたいへい)さん、絵里子(えりこ)さん、そして1歳の蒼大朗(そうたろう)くんご家族です。
大平さんは2021年3月まで3年間、小松市の地域おこし協力隊員として、2019年に小松市江差町にオープンした「ジビエアトリエ加賀の國」の立ち上げや運営に携わりました。〈ジビエ〉とは狩猟による天然の野生鳥獣の食肉のこと。この施設は北陸唯一の国産ジビエ認証を取得しており、南加賀地域で鳥獣被害対策により捕獲されたイノシシの精肉加工処理や、ソーセージなどの加工食品の研究開発も行っています。大平さんは卒隊後もアドバイザーとして、さばき方を始め衛生・品質管理や販売方法などさまざまな技術指導を担当しています。
ジビエ生産量を上げるのと並行して進めているのが、ジビエが一般に普及するための土壌づくり。一般の人たちにイノシシ肉の美味しさを知ってもらえるよう、月1回のペースでイノシシ肉の販売を行うほか、イベントに出店し炭火焼でジューシーに焼き上げたジビエなどを実演販売しています。
そして、飲食業界とのコラボレーションにも取り組み始めました。石川のソウルフード〈とり白菜鍋〉で有名な1950年創業の「さぶろうべい」が、2023年4月16日までの期間限定でイノシシ肉を使ったメニューを全店展開。肉は子どもや高齢者でも食べやすいよう小さめにカットし、塩麹(しおこうじ)に漬け込むことで臭みを消して食べやすくしました。大平さんは、イノシシ肉の美味しさとともに、日本各地の里山で起こっている鳥獣被害について多くの人たちに知ってもらいたいと考えています。
大平さんがなぜイノシシ肉にこだわるのか。それは大学院での研究がきっかけでした。
父親が転勤族だったという大平さん。長野県松本市で幼少期を過ごし、中学2年生まで千葉県千葉市、大学まで愛知県名古屋市に家族と共に住んでいました。その後、北陸先端科学技術大学大学院に進学するために能美市へ。知識科学研究科で、里山振興をテーマにサービス経営学を研究。農業従事者のモチベーションを上げるにはどうしたらいいか考える中、一番モチベーションを下げているのが鳥獣被害だと知ります。
そして捕獲されたイノシシの多くが廃棄されていることから、その命を大切にしなければという視点で獣肉の利活用に取り組み始めました。大学時代は友人が立ち上げた会社でイノシシ肉や皮製品の販売に携わったほか、羽咋市の地域おこし協力隊に採用され「のとしし団」のメンバーとして能登産のイノシシ肉のブランド化にも力を入れてきました。
そして、卒業後に小松市の地域おこし協力隊員として小松に移住。奥さまの絵里子さんとも小松で出会います。絵里子さんは川北町出身。大学進学で上京し、都内でのメーカー勤務を経て山口県で自然幼児教育に携わっていましたが、これからの人生について考え始め地元にUターンしていました。
2020年、結婚を機に小松に移り住んだ絵里子さん。里山暮らしで子育てを楽しみながら大平さんの仕事を手伝い、青空自主保育「おひさまぼっこ」にも参加しています。
そんな福岡さんご夫婦に、小松での暮らしぶりや、小松の魅力などについて伺いました。
Q . なぜ小松という場所を選んだのですか?
[大平さん]
実は大学院を卒業するとき、夢だったコンサルタントとして都内の会社に内定をもらったんです。でもこれでいいのかなと考えてしまって。東京、名古屋、大阪、長野、小松の駅前で深呼吸してみて、いちばん体に合うと感じる場所に住むことにしようと思ったんです。そしたら小松だった(笑)。実際、進学のために石川県に引っ越してから体調が良かったんですよね。ずっと偏頭痛に悩まされていたんですけど、それもなくなって。都会は街を歩くだけで看板やら音楽やら情報量が多すぎて、脳が疲れるのかもしれません。それから、僕の目の虹彩は茶色なので太平洋側だと陽の光が強すぎるんですよね。曇りや雨の日が多かったり、天気が良くても薄く雲がかかっていたり、石川ではサングラスをかけなくても目が開けられる(笑)。この地は自分の体質に合っていて、とても快適です。
Q . 山間の方にお住まいですが、家はどのように選ばれたんですか?
[絵里子さん]
当時は新幹線の工事関係者の方の需要があって、物件自体が不足していたんですよ。でも私は自然がいっぱいある場所に住みたくて、それだけは妥協できませんでした。一軒家を探していたんですけど、行ってみると床に穴が空いていたり、最初はなかなか住めるような家が見つからなかったんです。
[大平さん]
当時、地域おこし協力隊として市役所で勤務していて、たまたま向かいが建築住宅課。相談してみたら「空き家バンク」というシステムがあると知ったんです。予算や住みたい場所のイメージなんかを伝えたら、それに合うような物件をいろいろ教えてもらえて。登録される方の条件と合えば、いわゆる〈掘り出し物〉のような物件と巡り合えるんですよ。賃貸料も予算よりだいぶ抑えられました。先方からの条件は「夫婦か親子」。見に来たら丁寧に手入れされた立派なお宅で、しかも家主さんは猟師さんでもあったというご縁もあり、直感で即「お願いします」と(笑)。1週間で家が決まりました。
[絵里子さん]
住んでみて、本当に楽しくて。今の季節、少し歩くだけでフキノトウがぽこぽこ出ていて、それを摘んで蕗味噌を作ったり。ウドも芽が出ていて摘みたてを天ぷらにしたり。なのに20分くらいで映画館にも行けちゃう。適度な自然に囲まれて、快適な里山暮らしを満喫しています。
[大平さん]
山の方なので雪を心配していたんですけど、小松の除雪システムは素晴らしいですね。朝起きたら既に除雪車が雪をどかしてくれてあるんです。朝5時に出勤するときも全く問題ありませんでした。北陸は冬場の雪が大変だっていうイメージがあるんですけど、逆にちゃんと雪対策がされているから何の心配もいらないですね。
Q . 地域の方とも交流されているんですか?
[大平さん]
みなさん温かくて親切な方ばかりですよね。実は子どものおもちゃや洋服は95%がいただきものなんです。しかもどれも可愛くて質も良くて。チャイルドシートも譲っていただいたりととても助かりました。こうやってモノも心も循環しているんですね。人のつながりというものを実感する日々です。
[絵里子さん]
本当にそうなんです。近所の方が摘みたてのアサツキをわざわざ持ってきてくださったり、物々交換したり。散歩していても、みなさんよく声をかけてくださって楽しいですね。このあたりは他に小さい子が何年もいなかったので、みなさんこの子を可愛がってくれて、地域で子育てをしてくださっている感じでとてもありがたいです。
Q. 小松でよく行く場所はありますか?
[大平さん]
ジビエアトリエ加賀の國のすぐ近くにあるベーカリー「穀雨」さん。とてもレベルの高いおいしいパンを作っておられて、しかもオーナーさんがとても明るくて素敵な方なんですよ。それから木場潟公園もよく行きますね。眺めが良くて、散歩するのに気持ちいい場所です。
[絵里子さん]
安宅海浜公園の海にもちょこちょこ行きます。駐車場から浜までとても近いので、子どもと海で遊んだあとに車に戻るのがとても楽なんですよね。海が好きなので、気軽に遊びに行けるのが嬉しいです。それから「空とこども絵本館」が小松にあってくれてすごくよかった(笑)。お気に入りです。
Q. 小松市の魅力はどこですか?
[大平さん]
住んでいる人の幸福度が高いということですね。県外から来たのでよくわかるんですが、みなさん優しくて、本当に子煩悩。家族と過ごす時間をとても大切にされていますよね。残業や通勤時間に割かれる時間が少ないので、仕事から帰って子どもと一緒に遊んだり、運動会なども必ず見に行ったりって都会ではなかなか味わえないことなので、すごくいいなと思います。
[絵里子さん]
人と人との距離感も心地いいんですよね。田舎は閉鎖的なイメージがありますが、小松って新しい人たちが入りやすいというか、よそ者を温かく迎え入れてくれる地域性なんですよね。子どものこともみなさんで可愛がってくれて、親切にしてくださるのでとても住みやすいです。
Q. 小松市を一言でいうならどんなまち?
[大平さん]
小松は〈ちょうどいい〉まちですね。人と人との距離感も、商業施設の数も、公共施設の利便性も。ものや情報が多いからいいというのでは必ずしもなくて、適度に全てのものがあり、心地よく住むことができる〈ちょうどいい〉加減が絶妙だと思います。
[絵里子さん]
手に届く範囲になんでもある〈コンパクトシティ〉。自然も、買い物も、映画館も、子どもと遊びに行くスポットも、飛行機や鉄道など都会に行くための公共交通機関も。市内で全てが完結するんですよね。コンパクトでゆっくりとした時間が過ごせるまちです。
(取材は2023年3月)